初夏の足音を感じるようになった5月の第2週、津屋崎の町で「ふくおか夜なべ談義」を開催しました。今回のイベントは、これまで開催してきた「ふくおか対話と学び学園祭」の後継として企画されました。第1回、第2回と重ねてきた中で、私たちは様々な問いにぶつかってきました。私たちは何のために対話をするのか、対話を通して何を得たいのか。今一度根本的な問いに立ち返り、私たちが次に考えたいことを見つめなおしました。
その中でうまれたのが、次のような思いです。
「多様な分野と観点から真剣に対話し、ふくおかというローカルから次のおもしろい社会を創りたい」
時間に追われる現代において、ゆっくりと自分と向き合う、社会と向き合う時間があってもいいのではないでしょうか? 時には夜なべなんかして、自分について、社会について、心ゆくまでじっくり話したい。そんな思いから今回のイベントは企画されました。
そうして生まれた今回のイベントのテーマは「バターナイフから 軽やかに思考の旅へ」。
バターナイフ? 軽やかな旅? と思われた方もいるかもしれません。
それでは早速、2日間の思考の旅をご紹介したいと思います。
写真① 自己紹介で丸く輪になっている写真
1日目。まずは参加者同士の自己紹介の時間です。今回集まったのは、事務局メンバーを含め19名。行政、研究、産業、アート、スポーツ、学生など、様々なジャンルの人が集まりました。年齢も20代から50代と幅広く、それぞれの視点から、今回のイベントへの思いを共有しました。
写真② 田んぼ道を歩いている写真
自己紹介が終わった後は、早速バターナイフ作りを目指して、工房まで街歩きを兼ねた移動をしました。昔ながらの風景を残した津屋崎の道を進んでいくと、やがて田んぼ道が現れます。豊かな自然を五感で感じながら、道中も参加者同士で対話を楽しみました。
しばらく歩き、到着したのが今回のワークショップ会場である「みんなの木工房テノ森」です。「木のモノづくり」という旅をする空間と時間をつくる場である「テノ森」でで、代表の細井護さんに教えていただきながら、バターナイフづくりの時間に入りました。
写真③ バターナイフ作成中の写真
まずはバターナイフの形があらかじめ作られているものから、好きな素材・色を選び、磨く作業に入りました。始めは粗いサンドペーパーで磨き、つるつるになったら一度湯に通して繊維を立たせ、次はより細かなペーパーで磨く……という作業を繰り返します。多くの参加者にとって初めての経験のようでしたが、少しずつ変わっていく手触りを頼りに、ひたすら磨く時間が続きます。もくもくと作業する方、感想をシェアしながら作業する方、各々のペースで作業が進み、1本目の作業が終わりました。
続いて2本目の作成です。2本目は、1本目のように形ができているものから磨くか、木の板に自分で形を描いて1から作成するか、自由に選択することができました。参加者の皆さんは続々と鉛筆を手に取り、工房には先ほどと打って変わって糸鋸の音が響き始めました。早速形の切り出しを始める方、2本目も磨き作業から始める方、1本目の作業にこだわる方など、先ほど以上に各々のペースでの自由な作業が続きます。そうして名残惜しくも制限時間が来た後は、今回のバターナイフ作りについて感想をシェアしました。
「1本目を作ったうえでの2本目の手際の変わりようが面白かった」「自然と『誰かのために』つくりたいという気持ちが芽生えてきた」などの感想がでてきました。あっという間でしたが、様々な気づきにあふれた時間となりました。最後に、代表の細井さんがこの工房を続ける思いを聞き、バターナイフづくりは終了しました。
写真④ 夜ご飯中の写真
夜はいよいよ、夜なべ談義の時間です。「夜なべ」にちなみ、夜ご飯の「鍋」を囲みながら対話を楽しみました。ワークショップの振り返り、お互い気になっているテーマなど、あちこちで様々な話が生まれました。
そしてお腹も満たされた後、今回のメインの1つである「仕掛け」のもと本格的な対話を始めました。宿の2階のひらけたフロアに集合し、全員で円になります。そして室内の電気が消されました。部屋の中は窓から入ってくる月明かりでぼんやりとしているだけで、お互いの表情は見えません。日常とは違った雰囲気の中で、それぞれが関心をもつ、これからの社会についてのテーマを出し合いました。「人生における選択肢とは何か」「社会のボトルネックはどこにあるのか」「成功者とはどんな存在か」など、参加者から出てきた問いについて、少人数に分かれて対話を行いました。
ときおりグループを移動したり、場所を変えたりしながらゆっくりと時間が過ぎていきました。薄暗い部屋では、お互いの言葉と波の音だけが静かに響きます。異なる立場、異なる属性、異なる来歴からの意見が入り混じり、それぞれのグループでテーマがどんどん深まっていきました。
その後も参加者それぞれが自由に対話を続け、夜なべ談義は更けていきました。
写真⑤ 発表会の写真
2日目。心ゆくまで対話を味わった後も、まだまだ対話は続きます。2日目は、今回のイベントの問いである「次のおもしろい社会を創るには?」について、小グループになってじっくり対話を行いました。そもそもの定義から考えるグループ、自分の関心のあるテーマから考えるグループなど、それぞれが自由に考えを深めました。最後は各グループが話したことを共有し、次の社会のためにわたしたちがやりたいことは何かを考えました。
写真⑥ 感想シェアの写真
そして迎えた最終テーマ。この2日間を通してどんなことを考えたのか。2-3人のグループで話した後、最後は円になってそれぞれの感想をシェアしました。「いつもと違った立場で対話ができた」「普段関わりのない属性の人と話すことができて刺激になった」など、思い思いの感想が溢れました。名残惜しさを感じながらも、これにて2日間の旅は幕を閉じました。
ここで、参加者の方の感想をいくつかご紹介します。
・等身大で過ごせた時間、没頭できる時間、皆さんの哲学に触れた時間が素晴らしかった。
・いろんな背景を持っている人たちの率直な意見を聞けて嬉しかった。
・ポジティブに分かりやすく話すという、単純なことが一番大切だということが学びとして感じた。
・最近、どういうときに幸せを感じるか考えていて、それがはっきりと確証があるものになってきたのが、今回の変化でした。
感想の中には、プロセスや時間を楽しむ気持ちや、等身大・素直さといったキーワードがいくつか見られました。まさに今回のテーマである「軽やかに思考の旅へ」を実感できた方が多かったのではないかと思います。速さや結果が求められる現代社会において、時間を忘れて没頭し、ありのままに言葉を紡ぐことの面白さを、バターナイフづくり、夜なべの対話を通して、改めて実感できたのではないでしょうか。
今回の夜なべ談義には、普段関わりのないジャンルの人々が出会い、いつか次のふくおかをつくっていくきっかけになってほしいという願いも込められています。この2日間で皆さんの心に蒔かれた種がどのように芽吹くのか、事務局メンバー一同、とても楽しみにしています。
最後に、参加者の1人が感想の場で紹介してくださった、とある詩の一部を引用して締めくくりといたします。
「ねむりのもりの話」 長田大
いまはむかし あるところに
あべこべの くにがあったんだ
はれたひは どしゃぶりで
あめのひは からりとはれていた
みるときには めをつぶる
めをあけても なにもみえない
あたまは じめんにくっつけて
あしで かんがえなくちゃいけない
はなが さけんでいた
ひとは だまっていた
ことばに いみがなかった
いみには ことばがなかった
うそが ほんとのことで
ほんとのことが うそだった
あべこべの くにがあったんだ
いまはむかし あるところに
写真⑦ 集合写真